マグザに来てから一か月が過ぎたが、二人は現在も魔法同時制御の修練中だ。
魔法の素質に関するスキルを有しているカサネさんでも六属性の同時制御は簡単なことではないらしい。 クレアさんのアドバイスを受けつつ現在は六つ目の同時制御に挑戦している。 ミアも何とか置いて行かれまいと五つ目の同時制御に挑戦中だ。 ちなみに俺も光と土の二つは何とかできるようになっていた。まぁ、土に関しては今のところディグだけなので同時に使う機会はなさそうなのだが。という訳で、俺は今シディルさんの魔道具制作の方を見せて貰っていた。
当然色々な技術的要素も含まれるので他言無用の約束はした上でだが、素材の組み合わせや魔力の注入によって反応が変わったり、変化を見せたりする様子は見ているだけでもなかなか面白い。 しかし、とある実験をしたところでシディルさんが手を止めて考え込んだ。 しばらくしても動きがなかったので俺は聞いてみることにした。「何か上手くいかない感じなんですか?」
「ん?そうじゃなぁ・・・上手くいかないというよりは何かが足りてなさそうという感じかの。惜しいところまでいってそうなのじゃが最後の接続部への反応が弱いのかもしれん。カルミダイトでもあれば良い素材になりそうなんじゃが、あれはこの辺りには滅多に出回らんしの。どうしたものか・・・」 「素材が足りないってことですか。そのカルミダイトっていうのは何なんですか?」 「黄緑色に銀の斑点がある鉱石じゃよ。魔力の透過性が高くて魔道具と相性が良いものなのじゃが、産出量が少なくてのあまり市場にも出回っておらんのじゃ」黄緑色に銀の斑点?見たことがある気がするな。確かだいぶ前の取引の時に――あった。これか?
マジックバッグから珍しい色の石を取り出してみると、それを見ていたシディルさんが驚いた様子で聞いてきた。「なんと!それじゃよ。まさか持っておったとはの。どこで手に入れたんじゃ?」
「エストリネア大陸の方に居た時に、取引で手に入れたんです。なので大元までは分かりませんけど」 「なるほど。向こうで手に入れたのならギンデル鉱山のものかもしれん。あそこでは時折見つかるというマグザに来てから一か月が過ぎたが、二人は現在も魔法同時制御の修練中だ。 魔法の素質に関するスキルを有しているカサネさんでも六属性の同時制御は簡単なことではないらしい。 クレアさんのアドバイスを受けつつ現在は六つ目の同時制御に挑戦している。 ミアも何とか置いて行かれまいと五つ目の同時制御に挑戦中だ。 ちなみに俺も光と土の二つは何とかできるようになっていた。まぁ、土に関しては今のところディグだけなので同時に使う機会はなさそうなのだが。という訳で、俺は今シディルさんの魔道具制作の方を見せて貰っていた。 当然色々な技術的要素も含まれるので他言無用の約束はした上でだが、素材の組み合わせや魔力の注入によって反応が変わったり、変化を見せたりする様子は見ているだけでもなかなか面白い。 しかし、とある実験をしたところでシディルさんが手を止めて考え込んだ。 しばらくしても動きがなかったので俺は聞いてみることにした。「何か上手くいかない感じなんですか?」 「ん?そうじゃなぁ・・・上手くいかないというよりは何かが足りてなさそうという感じかの。惜しいところまでいってそうなのじゃが最後の接続部への反応が弱いのかもしれん。カルミダイトでもあれば良い素材になりそうなんじゃが、あれはこの辺りには滅多に出回らんしの。どうしたものか・・・」 「素材が足りないってことですか。そのカルミダイトっていうのは何なんですか?」 「黄緑色に銀の斑点がある鉱石じゃよ。魔力の透過性が高くて魔道具と相性が良いものなのじゃが、産出量が少なくてのあまり市場にも出回っておらんのじゃ」黄緑色に銀の斑点?見たことがある気がするな。確かだいぶ前の取引の時に――あった。これか? マジックバッグから珍しい色の石を取り出してみると、それを見ていたシディルさんが驚いた様子で聞いてきた。「なんと!それじゃよ。まさか持っておったとはの。どこで手に入れたんじゃ?」 「エストリネア大陸の方に居た時に、取引で手に入れたんです。なので大元までは分かりませんけど」 「なるほど。向こうで手に入れたのならギンデル鉱山のものかもしれん。あそこでは時折見つかるという
「すみません。数は少し多いですけどこれでどうでしょうか?」 「そのくらいの小物なら全然構わねえけど、それでいいのか?」 「はい。これでお願いします」 「おう。じゃこれで取引成立だな。助かったぜ兄ちゃん」 「こちらこそありがとうございました。クローゼットはまた今度でも大丈夫ですか?」 「あぁ、取っとくから都合の良い時に取りに来てくれ」そうして大きな取引を終えた俺は、一先ずクローゼット以外の品を受け取って露店に戻ってきた。そこで俺を出迎えたのは呆れたようなロシェの視線だった。『・・・遅いわ』 「わ、悪かったって、ちょっとあの後色々あってさ・・・」俺は事情を説明して何とかロシェに許して貰った。 戻ってきてからも客足は途絶えず、マグザの特産品や薬類、用途不明の遺物、工芸品など様々なものを取引で交換できた。 時々ガラクタのようなものを交換に出されることもあるのだが、例の遺跡で使った小箱のようなものがあるかもしれないので、明らかなゴミ以外は取引に応じている。ただ、そのせいで最近はマジックバッグの容量が少々圧迫されてきているのでそろそろ整理したほうが良いかもしれない。 ともあれ、今日の成果に満足しながら客足が落ち着いたところで屋敷に戻ることにした。『そういえば、あの木材は結局何と交換したの?』 「あぁそれな。あの人実は有名な家具職人だったみたいでさ、一つは綺麗なクローゼットにしたんだけど、残りのは見てのお楽しみかな」 『?よく分からないけど、あとで見せてくれるってことね』そんな話をしながらシディルさんの屋敷に戻ると、シディルさんがちょうど地下から上がってくるところだった。「また何かの調査をされてたんですか?」 「いや、魔道具開発の方での。ちょっと頼まれごとをしとるんじゃ」 「なるほど」と言ったところで後ろから扉の開く音が聞こえた。 ちょうどカサネさんたちも戻ってきたようだ。「ただいま~あら、アキツグも戻ってきてたのね」 「ただいま戻りました」 「おじいちゃん、ただいま」 「うむ。お
一方その頃、自分のことをお父さんや保護者などと称されているとは知る由もないアキツグはロシェとのんびり露店での商いに勤しんでした。「ロシェは向こうに付いて行かなくて良かったのか?」 『う~ん。よく分からないし、そもそも二人には私の声が伝わらないからね。こっちのほうが気楽で良いわ』 「そっか。確かにそうかもな・・・ックシュン!」 『大丈夫?風邪とかなら無理しないほうが良いわよ?』 「いや、そんなことはないけど。誰かに噂でもされてるのかな?」 『何それ?』思わず前の世界でよく言われていたことを口にしたが、当たり前だがロシェには意図は伝わらなかった。 そんな話をしていると一人の客が並べている品を見て声を上げた。「お?これはまさかメイル大森林の木材じゃねえか?」 「はい。そうです」 「やっぱりそうか。こんなところで見かけるとは思わなかったな。ちょっと聞きたいんだが、あるのはここに並んでる分だけか?」 「いえ、馬車にまだ在庫がありますけどどのくらい必要でしょうか?」 「内容次第だができればあるだけ欲しい。この辺で仕入れようと思ったら運搬費だけで結構掛かっちまうからなぁ」という話になったため、露店に離席中の札を置き念のためロシェに留守番をお願いして馬車の方にやってきた。「このくらいですね。本当に全部で良いですか?」 「あぁ。とはいえこれだけのものと交換して貰うとなるとな。う~ん・・・俺が作った家具と交換ってのはダメか?」男はしばらく悩んだあとにそんな風に提案をしてきた。「家具、ですか?ということはあなたは家具職人なんですか?」 「あぁ、俺はカルカドってんだ。工房も近くにあるんだがどうだ?」 「・・・分かりました。俺はアキツグです」 「助かるぜ。工房はこっちだ」ロシェを待たせてしまうのが気掛かりではあったが俺はついて行くことにした。というのも以前この街の商人ギルドで聞いたことがあったのだ。この街には有名な家具職人が居るという話を。その人物の名が確かカルカドだった。 まぁ本人かどうかはまだ分からないが、そ
魔法修練を開始して数日が経ち、カサネは四属性を制御できるようになっていた。元々四属性の扱いに慣れていたカサネの方がミアよりも一歩リードしている形だ。それを見た時のミアは「負けるもんか~!」と熱意を燃やしていた。 そんなある日、スフィリムの了承も得て予定も経ったため、以前に話していた女子会をすることになった。 その日は学園は休みであったため、朝からスフィリムが屋敷にやってきた。「初めましてクレアの親友のスフィリムです!」 「親友って、もうスフィリムったら。。」 「初めまして、私はミアです。今はクレアさんに魔法を習っているのよろしくね」 「こんにちは。学園祭の時以来ですね。覚えてるかしら?」カサネがそう聞くとスフィリムはウンウンと首を縦に振って答えた。「もちろんです!カサネさんのような綺麗な人忘れるわけないですよ~。ミアさんもビックリするくらい綺麗ですけど。実は貴族のお茶会みたいなのだったりしません?私場違いだったりしないですか?」 「ありがとう。でも、そんなことないわよ。今日は気分転換に楽しもうっていうだけだから気楽に行きましょう」ミアは現在変装用の魔道具は着用していない。折角みんなで楽しもうという時に最初から姿を偽るのはどうかと思ったからだ。流石に王女であることは話せないので貴族の娘という自己紹介になったが。 そうして自己紹介を終えた後は、お互いのことについて軽く話をした。「クレアさんは生まれつき六属性持ちだったんですよね?やっぱり魔法の扱いとかも直ぐに上達されたんですか?」 「いえ、多少早かったかもしれませんが人並みだと思います。両親が早くに他界しておじいちゃんのところでお世話になることになったんですけど、少しして鑑定で六属性持ちだったことが分かったんです。おじいちゃんは喜んでくれたんですけど、特に強制されるようなことはなくて。私はおじいちゃんが喜んでくれたのが嬉しくて、自分から色々と勉強するようになってました。優秀な師が側に居たのも大きかったのかもしれません」 「そう、だったんですね。その、安易に聞いてしまってすみません」確かにクレアの両親には会ったことがなかった。屋敷には
クレアは俺達と話しながら周囲に一つずつ異なる属性の玉を浮かべ始めていた。「そこまで扱えるなら今更になるとは思いますが、一応おさらいとして軽く基本からお話ししましょうか。複数属性を同時に扱う一番のメリットは魔法同士の相乗効果を狙えることです。分かり易いのは火と風ですね。上手く扱えれば風で火の勢いを増すことができます。火と水なんかは相手の魔法を打ち消す使い方もしますが、同時に操る場合は水蒸気爆発させることもできます。これはかなり高威力で制御できないと上手くいきませんけど。三属性以上になるとさらにその効果や威力を強化できることが多いのですが、あまり実践で使われることはないみたいですね」 「そもそも三属性を扱える魔導士の数が多くありませんし、扱えたとしても制御難度が格段に上がりますから。失敗したら隙を晒すだけでなく味方に被害を及ぼす可能性まであるので実戦で使える魔導士は一握りでしょう。複雑になるほどその規模も大きくなりがちですし・・・」そう答えながらもカサネの目はクレアに釘付けになっている。 彼女は六つに増えた玉を近づけていき徐々に融合させていた。やがて一つになった玉は多少大きくなった程度だが、その内部では各属性が絡み合う様に影響しながらも調和を保っていた。「・・・ふぅ。これが六属性の同時制御、今回の最終目標です。私もこんなことは滅多にしないので少し緊張しましたけど」 「それ、もし何かにぶつけたらどうなるんだ?」 「これですか?これはあくまで見本として作ったので攻撃能力はあまりないですよ。この中庭にクレーターを作る程度でしょうか」何でもないことのように言ったが中庭は二、三十メートルほどはある。 そこにクレーターを作る威力と言うのはどれほどのものなのか。 しかもクレアさんはそれで攻撃能力はあまりないと言っているのだ。(・・・例の魔法よりクレアさんの全力の方が危険なんじゃないか?)思わずそんな考えが頭を過ぎった。しかしクレアさんの性格を考えればそもそもそんなことはしないだろう。「あの、それでそれはどうするの?」 「これですか?どうもしませんよ。最終的な目標を先に見て貰ったほうがイメージしやすい
ダンジョンから地上に戻ると時刻は既に夕方に近かった。 屋敷に戻るとクレアさんも学園から戻っていたようで、リビングで読書をしていた。「皆さんお帰りなさい。ダンジョンのほうはどうでした?」 「ただいま~しっかり魔法覚えてきたよ~!」 「それは良かったです。それなら明日からでも始められそうですね」クレアさんは普段日中は学園の為、魔法修練はその後ということになる。 まぁ一度教えを受けた後はそれを元に復習することはできるのかもしれないが。「あ、クレアさ・・・う~ん。ね、これから仲良くなるためにもお互い呼び捨てじゃだめかな?」 「え?はぁ、私は構いませんけどミアさんを呼び捨てにするのは流石にちょっと・・・」 「え~今の私はただの一冒険者だよ?歳だってほとんど変わらないし」 「いえ、そういうことではなくて。私、人を呼び捨てにすること自体がほとんどないので」ミアは王族であることを意識させないためにそう言ったが、クレアは別の理由で呼び捨てにするのは難しいと返した。 しかしミア諦めずに以前に聞いた内容からさらに疑問を投げかけた。「でも、スフィリムさんだっけ?のことは呼び捨てだったよね?」 「えぇ、まぁそう、ですね。あの子は友達の中でもちょっと特別なので」 「そっかぁ。流石に図々しすぎたかな。ごめんなさい」 「い、いえ。謝らないで下さい。私が普通じゃないだけだと思いますから」 「そんなことはないですよ。人それぞれだと思います。私も人を敬称無しで呼ぶのは苦手ですから」ミアの謝罪にクレアは慌ててそんなことを言ったが、そこにカサネが同意する形で二人の間を取り成していた。「うん。この話はまたいつか、かな。それはともかくクレアさんもやる気になってくれたみたいで嬉しいよ!」 「え?えぇ、やる気というか引き受けた以上はできる限りお手伝いさせていただくつもりですよ」 「う~ん、固いなぁ。まぁこれから仲良くなっていけば良いか。それじゃ、明日からよろしくね」 「はい。よろしくお願いします」 『あなた達、